神田村と共に(神田村こう使っているD)
(2012/11/1全国書店新聞より)


書店はこれからどうすれば良いのか? 田舎で書店を経営し、ずっと悩んでいるテーマであり、おそらく全国の書店の皆様も同様の悩みを抱いているものだと思います。

長らく本が売れなくなって来たと言われ、アマゾンなどのネット販売の台頭で、書店は、特に田舎の小さな書店はもう必要ないとも言われてきています。

実際に必要のなくなった人もいるでしょう。けれど書店がないから仕方なくネットで買うという層も含め、書店で買いたいと思っているお客様がいる限り、私達は書店員であり続けるべきだと思います。特にネット販売があるがゆえに、実際に手で触れ、中を見て買える事の意味も見直されていると思います。お互いは相反するものではなく、共存すべきで、お互いを潰し合うような、そして規模のみを追求する売り方をそろそろ見直す時期だと思っています。 

 現在の書店業界の流れのように規模のみを追求しなければ書店はやって行けないのか?と言う疑問。その事に自信を持ってNOと言える書店のあり方を私は神田村との取引で学ぶ事が出来ました。お客様はまだまだ本を求めています。そして町の小さな書店もなくては困るお客様がまだまだ沢山いらっしゃるのです。電子書籍やネット販売はあくまで販売チャンネルの一つであり、小さな書店が閉店せざるを得なくなる原因のすべてではないのです。その本当の原因の一つである、本を売っても利益が出ない体質こそ、大きな問題の一つなのです。それは単純に本の仕入れが高いなどの問題ではなく、総合的に見たコストの高さにあります。ここではその詳細には触れませんが、現在の書店業界のコストには多くの「無駄」があり、長く書店業界では通例となっています。当店はもずっとその問題の一部である、過剰送品、返品入帳問題に苦しんでいました。しかも年を追う毎に酷くなって行くこの問題は大手取次の寡黙的独占による立場の利用に他なりません。書店を営む人、特に中小書店の方は皆、同じ不満を口にします。多業界から見ても異例とも思えるこの取引条件は好景気を前提としたシステムで、もはや現在では考えられないようなものとなっています。

 

 そして中小書店にとって最も頭の痛い「新刊配本問題」。中小書店も取次の「お客様」であるはずなのに、当然のように「おたくには配本ありません」と言う対応。書店で、お客様に「貴方には売れませんよ。」と言っているようなものです。しかも、大手取次営業はそれが当然のように対応し、その後のフォローもありません。ほしければ手数料のかかる高い仕入れ方法を利用して下さいと言わんばかり。同じ本を売っても大手書店と中小店での利益には大きな差が生まれる原因の一つです。

 

 私はそのような状況の中で書店を経営して来ました。最初の頃は何度も大手取次営業にかけあい、なんとかしてほしいと懇願しました。けれど、一向に改善される事はありませんでした。そしていつの間にか「新刊を確保する」事が一番の「仕事」になっていました。高い手数料を払って仕入れた本をようやく店に出して一息、そしてまた次をどう確保しようか?と考える。売れても利益は少なく、そしてそもそも数も少ない。このようなスパイラルに陥り、いつしかもう書店に未来はないと本気で悩むようになっていました。

 

 そんな時「書店新聞」で神田村の記事に出会いました。以前、ある書店経営者の方に、他の大手取次はどんなものなのかを伺った時、「どこも同じだよ」という返事を貰って以来、「取次」とはこういうものだという頭になっていた私にとって、神田村との取引の衝撃は大きなものでした。新刊を頼むと、きちんと送ってくれたのです。特にずっと配本の無かった新刊文庫本が普通に注文通り配本された時は嬉さのあまり涙したものです。この時「やっと『本当の書店』になれた!スタート地点に立てた!」と実感しました。

 

 神田村はそれぞれの取次によって取引している出版社が違います。けれど、横の繋がりが非常に強く、扱っていない出版社の本を注文しても、「うちでは扱ってないけどねー、ちょっと別の所に聞いてみるよ。」っと快く神田村の別の取次から探し出して来てくれます。決して大手取次に劣っている事はありません。いや、むしろ中小書店にとっては優っている所ばかりなのではないでしょうか。

 

 現在、神田村のお陰で「本を売る」事に力を注ぐ営業が出来るようになり、売り上げも伸びて来ています。本の売り場も新刊のお陰で色々と回転し常に新しい売り場を作れるようになりました。そしてなによりも商売を続ける上で大事な利益率も上がり、私達に「まだまだ本を売る仕事が出来るんだ!」と言う前向きな気持ちを与えてくれています。

 

 神田村の存在は、これからも諦めずに頑張ろうと思っている中小書店にとって、とても大きな助けになる事は間違いありません。様々な利害関係が絡みあい、もはや潰しあいになってしまっている現在の書店業界の中にあっても、純粋に読者と本を結びつける手助けをしたいと願う私達のような書店と神田村の間には、同じ願いを持ち続ける「同志」としての絆が存在しているのではないでしょうか。

東北地方某書店より
 

弘正堂
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